「窓の灯」青山七恵 

「窓の灯」青山七恵 

 ただの隣人、されど隣人。

 ミカド姉さんがきりもりする喫茶店で住み込みのアルバイトをはじめたまりもは、自室から見えるアパートの一室に住む青年が気になってしかたがない。ことあるごとに観察するばかりでなく、自分がその部屋に連れ込まれたシーンを想像し、部屋の中で彼が何をしているかといったことまで妄想する。

 自室の隣には、ミカド姉さんが住んでいる。彼女は喫茶店のお客を自室に連れ込みなんどもコトに及んでいる。そんあ彼女の一種のすがすがしさを彼女を慕っていた。あるとき姉さんがむかし恋に落ちた"先生"がお店に現れる。その雰囲気に、まりもは惹かれるが、昔の姉さんと恋仲であったことがわかり、穏やかではいれらない。

 ミカド姉さんが例のごとく”先生"とコトに及んで悲鳴をあげたときだ。まりもは向かいの青年と目が合い一礼を交わすのだ。彼は、ミカド姉さんの熱心な観察者だったのだ。

 男の女の情事という他者が入り込めない人間関係を外側から眺めることしかできなかったまりも。彼女は今までたんなる赤の他人で隣人でしかなかった青年に、第三者がつ"他者視点"という、精神的にちょっと優越的な立場を教えられるのだ。

 ただの隣人だが、自らが取り巻く状況を冷静かつ客観的に省みることのきかっけになることもあるのだろう。