「一八〇秒の熱量」山本草介

36歳の崖っぷちボクサー米澤重隆。戦績は平凡であり現役終了まで残された時間はあと1年弱。安定した職業に就かず、不規則なシフト勤務を続け、その合間に過酷なトレーニングを自らに課す。この男を突き動かすものはいったいなんなのか… 興味本意で取材し続ける著者は、米澤が巻き起こす熱狂の渦に知らずしらず飲み込まれていく。

「瑠璃の雫」伊岡瞬 角川文庫 2011

アルコール依存症の母親と、小学校3年生の弟と暮らす小学校6年生の美緒。家庭に、学校に、居場所がない彼女のもとに、元検事の丈太郎が現れる。彼の娘は、過去に誘拐されて現在まで行方不明というだという。親身に接する丈太郎に美緒は心を徐々に開いていくが… 欲望と狂気、正義と不義が複雑に渦巻く人間模様の中で、美緒は真実を知る決心をした。

2021年中学入試にコロナ関連の問題は出るのか

※この記事はあくまで個人的な見解です。記事の内容がもとで生じたいかなる損害や損失についても当ブログでは一切の責任を負いかねます。

 

 出題されたとしても、問題の導入でさらっと触れる程度で終わるのではないかと思う。例えば、「コロナをきっかけとしたテレワークの普及」など、無難な方向へ話題を向ける役割として扱われるのではないか。コロナ情勢は、時事だけでなく地理や割合(算数)の知識や能力を見る材料がわんさとあり、マジで素材の宝庫だ。しかし、ファクターXや肺炎球菌・インフルエンザとの違いや自粛の有効性など面白い領域に踏み込むことは無理だろう。学校がなにがしかの見解を持っていると邪推されると、色々と面倒が起こりそう… コロナウィルスの正式名称やCOVID-19が何かは客観的事実を問う問題だから大丈夫だろう。問題文の誘導付きでコロナウィルスの模式図くらいは書かせてもセーフかもしれない。(以前、カマキリの顔を書く問題もあった)。他国と日本の死者数を表から読み取って割合で比較する問題もギリギリ大丈夫かも知れない。

 小学生が考える内容で問題ないことは以下の事柄だろうか。出題するなら、公立中高一貫校入試のように、父親と子供が対話する形式で文系・理系を総合的に問うていったら面白いと思う。

 

・新型コロナウィルスの正式名称ってなに?(社会:時事)

・COVID-19ってなに? ウィルスじゃないの?(社会:時事)

・コロナウィルスの模式図を書く(理科)

感染症ってほかにどんなのがあるの?(社会:時事)

・いつどこで発生したの?(社会:地理)

・多くの死者をだした国はどこ?(社会:地理)

・自粛・ロックダウンはどんな意味があったの?(算数:グラフ読み取り)

・日本とアメリカの死者数はどのくらい違う?(算数:グラフ読み取り・割合)

PCR検査ってなにをするの?(算数・理科:割合)

・コロナはただの風邪なの?(算数・理科:割合)

・コロナをどういう風につきあっていけばいいの?(教科横断)

・親になったらどんな風にコロナを子供に伝える?(教科横断)

 

  生徒も色々と疑問を持っているようで、他の先生に「コロナってただの風邪なんでしょ」とか「正式名称はなんなの」と聞いている様子をたまに見かける。満足に答えられていないことが多くて、代わりに答えてやろうかと思うこともしばしばだ。あるいは、高校生ともなるとテレビの報道に対して「感染者だけじゃなくて、どれだけ検査したかくらい教えて欲しい」と言っており、彼ら彼女らなりに情報発信の仕方に不満をもっていることも伺えた。

 受験問題を作る方は、コロナにいかに関心を持っているかを、世の中の出来事にどれだけ関心を持てているかを図る指標にしても良いと思う。

 っていうかどこか気骨のある学校さん、BCG仮説とか結核流行地との関連を話題にして問題つくってくれないかなぁ。

コロナ狂騒曲と塾講師と

 半年で数名の派遣講師が消えた。授業数が減ったことで実入り(授業量)が減ったことが原因だろう。いずれも40代以上の方々は現場で圧倒的に必要とされている方以外は切られてしまったようだ… 不況になれば真っ先にそのあおりを食う。それがいまの雇用の仕組みがであることは万人が理解している。よってこの事実を倫理的にあれこれ言いたてたり思案をめぐらせても、目の前の現実に建設的に対処したことにはならないだろう。それが無意味だとは言わないが、今の立場でやることではないことを理解するくらいには私も成熟した。

 いなくなった人たちに共通することは何か。若さが足りなかったのか。大した成果を残していなかったのか。圧倒的な強みがなかったのか。保護者からの信頼が足りなかったのか。色々と欲張りすぎたのか。勤務態度に問題があったのか。足りない知識を必死で蓄えようとする当たり前の職業努力がなかったのか。努力を見せびらかす人ほど焦点の定まらない努力をしているからか。それとも、そもそもこれが派遣社員のたどる標準的な運命なのか。そこから生き残る人は稀な例外なのか。

 それらをよく考えてみて自分ごととして捉える。どうやったら落とし穴にハマり、地獄への階段を降りることになるのか。そうした上で地獄への入り口をどうやったら回避できるのかを考え実践していくことこそが建設的というものだ。"天国へ至る唯一の道は地獄への道を熟知すること"。この"熟知"という部分が重要で、上であげたことは、いなくなってしまった方々に対する私の想像にすぎない。

 こうしたセンシティブな情報は生半可な態度や覚悟ではアクセスできない。でも、地獄へは死んでも落ちない(言葉がヘンだが)という態度と覚悟を固めてアクセスしてみるしかない。

「昭和16年夏の敗戦」猪瀬直樹 1983

"日本必敗"。これが「総力戦研究所」に召集された若手精鋭らが出した結論だった。造船能力、予想消耗艦船、燃料需要量、燃料供給量などのデータ持ち寄り、シミュレーションをしてたどり着いた答えは"決して戦争をしてはいけない"。昭和天皇きも煎りで首相に任命された東條は天皇の意を汲み最後まで開戦に反対していたが、帝国憲法の仕組み的欠陥が統帥部(大本営)の独断を許してしまう。そして御前会議では開戦を前提とした数値が示され日本は戦争の泥沼へと否応無しに踏み込んでいく。そして「総力戦研究所」のシミュレーションは現実の戦争と酷似していた。初戦は優位に運ぶが徐々に英米、そしてソ連に圧迫されていく。

「七人のイヴ」ニールスティーブンスン 日暮雅通・訳 早川書房 2018

[ネタバレ]

突如、月が七つに分解して、地球に隕石になって降り注ぐことがわかった。残された時間は2年。人類は人物を選別し、わずかな人間を国際宇宙ステーションを基礎とした「箱舟」へと送り込む。やがて<ハードレイン>が始まり、故郷の地球は火の球体と化した。生き残った人類は、命がけのミッションや政治闘争で犠牲者を出しながら、数少ない生存への選択肢を、リスクを背負って取り続ける。小惑星の谷間に「箱舟」を辛くも着陸させたあとに残った者は女性8名だった。彼女らは卓越した遺伝子工学を駆使して、自分たちの生物学的・社会的特徴を持った子孫を残すことを決める。

それから5000年。彼女ら"イヴ"の子孫は地球を囲むリング上で、レッド陣営とブルー陣営に分かれた闘争状態にあった。両陣営は、<ハードレイン>を生き延びて独自の進化を遂げた人類を巻き込み地表の領有権を巡り、地表での戦いを始めた。

「ヤクザときどきピアノ」鈴木 智彦 CCCメディアハウス 2020

 5年に及んだヤクザの密漁取材。その校了明けに見た映画の主題歌・ABBA「ダンシング・クイーン」が著者の魂を直撃した。涙を流しながらピアノで"この曲を弾く"と決めピアノ教室を訪れた著者は、運命の人「レイコ先生」に出会う。自分でも弾けるか、と問う鈴木に対して、

練習すれば弾けない曲などありません。

と、さらりと答える。見た目の可愛さとは裏腹に、ユルさのない硬質な雰囲気をまとった先生の居住まいを鈴木はこう表現する。

人を殺したことのあるヤクザが特別なオーラを放っているのに似ている。

 そして、先生が弾いてみせたデモ演奏「ラ・カンパネラ」。曲が進み高音の強い連打に移行したとき、30年前に経験した次の出来事がフラッシュバックする。

至近距離から38口径の9ミリ弾で撃たれた。(ブログ主注:防弾チョッキ越し)

 一瞬で人生観が変わってしまうような衝撃に、またしても落涙を隠せない鈴木は「レイコ先生」のもとでこそピアノ修行をするべきだと決意した。止まらない涙を袖で拭きながら受付で入会申込書を書く鈴木。

 52歳、ピアノ未経験者の挑戦が始まった。

 

http://books.cccmh.co.jp/list/detail/2422/