「ヤクザときどきピアノ」鈴木 智彦 CCCメディアハウス 2020

 5年に及んだヤクザの密漁取材。その校了明けに見た映画の主題歌・ABBA「ダンシング・クイーン」が著者の魂を直撃した。涙を流しながらピアノで"この曲を弾く"と決めピアノ教室を訪れた著者は、運命の人「レイコ先生」に出会う。自分でも弾けるか、と問う鈴木に対して、

練習すれば弾けない曲などありません。

と、さらりと答える。見た目の可愛さとは裏腹に、ユルさのない硬質な雰囲気をまとった先生の居住まいを鈴木はこう表現する。

人を殺したことのあるヤクザが特別なオーラを放っているのに似ている。

 そして、先生が弾いてみせたデモ演奏「ラ・カンパネラ」。曲が進み高音の強い連打に移行したとき、30年前に経験した次の出来事がフラッシュバックする。

至近距離から38口径の9ミリ弾で撃たれた。(ブログ主注:防弾チョッキ越し)

 一瞬で人生観が変わってしまうような衝撃に、またしても落涙を隠せない鈴木は「レイコ先生」のもとでこそピアノ修行をするべきだと決意した。止まらない涙を袖で拭きながら受付で入会申込書を書く鈴木。

 52歳、ピアノ未経験者の挑戦が始まった。

 

http://books.cccmh.co.jp/list/detail/2422/