寿げ!

 なんとも嬉しいことにこの6月、中学生以来のくされ縁を保っていた親友が結婚する。彼とはお互い30歳を過ぎたあとも、たまの休暇に海外旅行に連れだったり、暇な休日の夜に酒を酌み交わしたりしていた。そしてその一方で、私は少なからず気を揉んでいた。このくされ縁は一生解けないものなのではないか、と。白いものが頭を覆う歳になっても、相変わらず温泉旅行などに連れだち、若い女性を見ては鼻の下を伸ばして喜んでいる日々が続いているのではないか、と。

 この心配は杞憂に終わった。

    飯田橋の小洒落たお店の座敷で、グラビアアイドル顔負けのプロポーションと容姿を誇る奥様の写真を見せてもらったときはとても驚いた。え、これお前の嫁さん?   は、マジで?    失礼ながら、これが彼の婚約者をいちばん最初にこの目で確認したときの偽らざる本音だった。彼は、決してイケメンではない。中学生時代は毛髪の縮れ具合や、歳のわりに立派なおでこなどに注目した同級生が、大仏にちなむコミカルなあだ名をつけたりしていた。

    その大仏様がこんな美人と結婚するという。眼前の私にどや顏することもなく、真摯に結婚報告する彼の姿に、私は不覚にも酔った。馴れ初めやらデートの模様やらを語る様子は、普段なら茶化してやるところだが、このときの私は「やるじゃないか、お前」と心の中でエール送っていた。かくも、人生の重大な決断をくだした男の姿は、見るものをして清々しい気分にさせるものなのか。容姿という点においては、月となんちゃらと揶揄されそうであるがゆえに、この男の前向きな姿勢がよりいっそう増幅されて私の心に迫ってきていた。

    こうして、容姿ばかりを俎上にあげる私とて、彼のアグレッシブな姿勢や問題解決能力を評価していないわけではない。ベトナムに旅行したときには、悪徳ドライバー(勝手に彼がそう思っていただけだと思うのだが)相手に、日本円なら取るに足らない程度の値切り交渉をかなりの喧嘩腰で展開していたこともあった。また、ある観光地にタクシーで向かうときは約30分もの間、行き先の詳細と値段設定について延々とドライバーおよびタクシー会社相手に交渉していた。しかも、それは英語だった。そして、最終日の夜遅く最後の晩餐を共に楽しもうと、あるレストランに訪れたときのこと。閉店も近く、目当てのメニューがほとんどないことを知るやいなや、これからの楽しむべき時間をフイにされたと思ったのか、店員のオネエさんにガチで切れ始めてしまった。紳士的な態度を意識する人なら、やらないことなのだろうが、そんなキレイごとを抜きにして目の前の幸せを大切にしたいと願う、彼の常識にとらわれないアツすぎる思いがヒシと伝わってきた。店員の対応はしばらく私がやっていたように思う。

    そう、やはり男は中身だ。アツい中身が必要なのだ。

 このやろう、寿いでやるよ。ご結婚おめでとう。お幸せに。